タイ初の女性総理が誕生した。タクシン・シナワット、44歳。なかなかの美人である。しかも、話が上手い。突然、彗星のごとく登場したこの女性候補のおかげで、今回の選挙はこれまでになく、タイ全国での盛り上がりは、ちょっとした事件だった。
インドのガンディ、フィリピンのアキノ、パキスタンのブット、インドネシアのメガワティと、これまでのアジアの女性指導者は、建国の父などの「忘れ形見」である娘や妻とパタンが決まっていた。
ところが、タイの新首相はチャイニーズ系実業家であり、汚職問題を抱える兄のタクシン元首相がドバイに逃亡中という点で、新しいパタンだ。チェンマイに拠点を置くシルクの老舗シナワットの経営者がタクシン一族である。元首相の妹でありながら、この企業の女性経営者は、政界ではバージンであり、その鮮度も手伝い、大騒ぎになったという。
まだ現地取材ができていないが、彼女の勝利には2つのことが推測できる。バックにとてつもない資金力があることと、広告代理店並みの選挙参謀がついていることだ。資金はドバイにきる兄タクシンからか、イギリスや中国の大物から出ている可能性も捨てがたい。彼女はテレビよりもFACEBOOKを上手に使ったといわれる。インドネシアで現大統領のスシロ・バンバン・ユドヨノが当選したときには、テレビキャンペーンが上手だった。背後には綿密に計算されたインドネシア系広告代理店社長の存在があった。7年後の今年、FACEBOOKの活用が功を奏した。
富裕層や知識人の支持者は少ない。だが、彼女はキャンペーン中、賃金引上げなど貧困層に耳障りのいい公約を掲げてきた。兄タクシンと重なる。前政権の不満分子を吸い上げての当選は、国王の健康不安と家族の不祥事も手伝って、タイ社会を大きく変えることになると私は見ている。
何より大きな勝因は、前政権に国民が辟易していた点だ。日本とよく似ている。豊富な資金力と優秀な選挙参謀を携えたノーマークの女社長が突然、立候補すれば、わが国の政界にも新しい風を巻き起こすことになるのだろうか。最低条件として、現段階で政界と距離があることが大切だ。