なぜ服にこだわるの?

その女性とじっくり話したのは初めてだった。彼女の個展に足を運び、会場を出たあと、軽食を食べようと誘われたのだった。

「ねえ、なんでそんなに服にこだわるの?」

意外だった。存在は知っていても、会うことは年に一度の集まりくらい。それも彼女が加わったのは数年前からだ。そこの面々や共通の知人の祝宴などと限られた場面である。私が日ごろ何を着ているかなんて知らないはずだ。ましてや、テレビを見ない彼女は私が画面に出ているのを見たことがないはずなのである。

たしかに、私は着道楽だし、衣食住の衣に最もお金をかけている。どこで何を着るかTPOに細心の注意をはらっているし、何を着るかは私の意識の中の大半を占めている。というより、納得のいかない格好で外に出ると落ち着かないのだ。自分の中で筋が通っていない感じのまま場に臨むと、失敗する。

キャスターとして進行したりニュースを読んだりするときは、まさに服装が出来を左右した。中身より格好という人もいるかもしれないが、納得しない服装のままカメラの前に出ると、パキっと伝えられないのである。内容にあわせるか歳時記に沿った物を着るか、自分に合ったものを着るかどうか。自分の納得がいけば、半分成功。それは自信とか確信といっていいかもしれない。

月釜にセーターで来る人がいるが、あれはいただけない。茶室には和服で入る。間違っても、セーターでは足を踏み入れない。それは茶室への敬意であり、ご亭主へのリスペクトがあるからだ。どうしても時間がなく、洋服で寄せてもらうとすれば、長い丈のワンピースか、長いスカートにジャケットを装うであろう。