帯が結べない

この日、私はとても疲れていた。からだ全体がだるかった。首も肩も凝っていた。

予定では、14時から始まる錦天満宮の例大祭に参列。夜は完全会館でプチ能を観劇。だから、和服を着ようと決めていた。でも、何を着たらいいのか、考えがまとまらなかった。

デスクでは資料を読み込んだりしていて、軽いメークと着替えを始めたのが13時過ぎ。いつもなら、シャキっと着替えて出かけられるものを、何を着たらいいのかまだ頭の中で像が結べずにいた。

天満宮だから梅を纏いたい。でも写実的な梅は11月にはそぐわない。ならば梅鉢紋の帯を締めればいいではないか。でも、袋帯を結ぶのは難儀だ。ここ数年、あの帯を締めていなかった。すっと結べるイメージを自分の中で作り上げられずにいた。とりあえず紫の着物を選んで梅鉢紋の帯を締め始めたのだが、久しぶりの上に滑りが悪い袋帯を整えるのに、やたら時間がかかった。なんだかダルくて辛い。億劫だ。ようやく結べたと思ったら、なんだか歪んでいる。直す気力もない。

ああ、止めた! 洋服にしよう。急いで服に着替え、ダウンを羽織って、カメラなどをリュックに詰めて現場に走った。どうにか神事には間に合った。幸い、参列者に和服姿の人はいない。

そこへ蓬莱堂のご主人が入ってきた。寺町通にある老舗茶舗のご主人である。和服だ。マズイ! やっぱり和服にすべきだった。梅文に拘る必要はなかったのだ。二部式に仕立て直している、たとえば稲穂文の帯を結べば、それで済んだのに。なんだか頭がまわらない。

例大祭は粛々と進んでいった。新撰を神前に供している間に、遠州流の家元がお茶を点て、献じられた。その後、舞楽も献じられた。平安雅楽会の練習が錦天満宮で行われている。そのご縁だ。例大祭は計2時間弱。

錦天満宮は錦市場の東端にある。組み上げられている地下水が美味しいことも評判を呼び、毎朝、料理屋などが水を汲みにくるという。私も時々お水をいただく関係で、前の晩、お献酒を届けた。祇園祭では神輿を先導する久世稚児が、ここで着替えて参拝してから馬にまたがる。重要な神社だ。だから堂々と和服で参列する心づもりだったのに。

ごめんなさいね。道真公、お家元、宮司さん、みなさま。

夜になると扁桃腺が腫れて熱が出そうな気配。急に冷え込んで、寝ている間に首が冷えたということらしい。ダルいのも億劫だったのも、からだがSOSを出していたのだ。

それでも、神事には参列したいし、正装もしたい。だから、帯は2本立てで考えるべきなのだ。袋帯がうまく結べなければ、二部式でいく。ダブル・スタンバイがストレスを減らしてくれる。

直前の瞬発力で乗り切るには歳を重ねすぎたかな。やはり数日前にイメージは作り上げておくもの。高齢者の領域に入れば、そのくらいの知恵はつけておきたいものである。

さて、このあとの観世会館での能鑑賞、はてどうしたものか。