都知事の正論が心に響く夜

19時半ころに投票所に出かけた。ぎりぎりの投票に誰もいないと思いきや、その時間帯に訪れる人が少なくない。足腰の不自由な妻の手を引きながら、いつも近所で見かける顔のおじいさんが入っていくのも見た。なるほど、20時まで開けるのは意味があると少し嬉しくなった。

ところが、家に戻ってみると、地上波でもBSでもニュース番組が一斉に、20時には石原知事の当選確実を報じている。なあんだ、自分が投じなくても、もう結果は出ていたのか。わざわざ投票に出向いたことが阿呆らしく思えてきた。 

そんな私の気持ちを見透かしたように、石原知事の第一声は、早々に出口調査だけで当確を打ったメディアへの批判だった。立ち居地が都民に近いことに少し驚く。

 その後の発言は――。我欲を捨てよう。日本再生のために腰を低くしてスクラムを組みなおそう。なぜ一番ノウハウ持っている事務次官会議をやらないのかとチクリ。東京が少しくらい貧乏になってもいいが、東京は首都であって政府じゃない。国が復興資金の調達を考えないと。そして、一番説得力があったのは「パチンコ屋と自動販売機」が消費する電力は福島原発を消耗しているとの指摘だ。

 よくぞ言ってくれたと思った人は多いはず。街がこんなに暗くなっているのに、パチンコ屋だけ眩しく賑々しいことにずっと違和感があった。民主党政権だから業界に物申せないのだろうと勘ぐっていたが、石原知事は、1年に1000万キロワットとされる「パチンコ屋と自動販売機」の消費電力を、夏までに政府が政令を出して抑えるべきと指摘した。

 「パチンコ屋と自動販売機」の乱立は、日本に特異な光景である。そう考えれば、コンビニ近くの路上に何台も並ぶ自販機は1台動いていればいいし、駅のホームもKIOSKが閉まっている間だけ稼動すればいい。酒屋前のベンダーも店が閉じる前にオンにすればいい。パチンコ屋にいたっては、輪番体制にするなり、深夜営業に限定するなり、せめて昼間は明かりを消すか、お年寄りのために手動の台に限定する。東京都内のパチンコ業界は、期間限定で自粛すべきである。

 石原氏のスピーチは本来、総理大臣が発すべき言葉だ。菅政権がちゃんと機能していれば、石原氏が圧勝することもなかったかもしれない。しかし、民主党政権が誕生してその未熟さが露見した上に、非常事態宣言ひとつ出せずにうろたえるばかりで指導力も判断力もない現実を突きつけられてばかり。震災から1ヶ月を経てもなお、何のビジョンもないまま被災地を視察する総理大臣に、どうやって日本の明日を託せというのだろう。

 もちろん、これまでの石原都政にも問題はある。震災がなければ、小池あきら氏と徹底的に論争し、東京の将来について都民が熟考する必要はあった。だが、未曾有の国難においては、この老練な政治家の放つ正論がずっしりと重く、心に響くのである。