2002年9月8日掲載  続く企業の不祥事 政官業の癒着突け

 「次世代を育てたい」。途上国を取材すると、知識人は口を揃えてそう言う。国の発展には教育が不可欠と、彼らは身銭を削って行動を起こす。それを受け、南アで開かれたサミットで、小泉総理は教育支援に2千5百億円を約束した。しかし、早急に優秀な次世代を育てなければいけないのは、むしろわが国だ。
 嘘つき、優柔不断、責任転嫁。豊かさに胡座をかいて、日本のモラルはどこへ消えたのか。企業人も官僚も政治家も、自らの罪の深さを自覚すべきだ。大人が手本にならない国で、子供たちにどんなを描けというのだ。 日ハムの牛肉偽装問題に続いて、東電の原発トラブル隠し。業界トップ企業でなぜ不祥事が続くのか。思い返せば去年も一昨年も同様な事件があった。悪習ばかりが受け継がれるのは、もはや体質か。
その仕組みと危うさを再検証する必要がある。
 歴代の4社長を含む経営陣が5日間で辞任。
東電の対応は迅速だった。皮肉にも、幾多の事故の経験から危機管理マニュアルが存在していた。しかし「素早い辞任 遅い全容解明」(3日付25面)では困る。メディアは追及の手を緩めてはならない。
 その点、日ハムは対照的だ。隠蔽工作の発覚から経営者の責任の取り方に至るまで、情勢が二転三転した。その迷走ぶりを連日報道するだけで、見えてきたものがたくさんある。同族企業の一族温存体質、ハム・ソー組合と農水省との癒着などだ。
 8月の紙面では、各種、図表が役に立った。BSE対策の補助金申請と支払の流れ、偽装牛肉をめぐる動き。日ハムの歴史や組織の構図も、図表を通して理解できた。だが、もうひとつ、農水省の組織図公開にまで踏み込むべきだった。
 農水省の罪は深い。偽装を招く隙を与えた買いとり制度や検品のやり方こそが問題だった。さらに監督責任。日ハムを非難し被害者面する武部農水大臣は、その感覚を疑われる。 8月8日付と14日付の「こちら特報部」では、そうした省庁の不手際、天下り先への遠慮などを指摘している。また21日付本紙で佐高信氏がコメントしているように、族議員の罪も見逃してはならない。不祥事が発覚した企業を一つひとつ検証することも大事だが、社内に聖域を生み出す政官との癒着にこそ、メディアは斬り込む必要がある。
 企業は宗教教団に似ている。カリスマ経営者のもとでは愛社精神が育ちやすい。業績を伸ばす活力も、ひとつ間違えれば隠蔽工作さえ正当化してしまう。監視も含め、冷静な目を持つことだ。今回、日ハムが策を講じたように、外の血を入れることも良策だろう。
 では省庁はどうするか。いっそ東京新聞で内部告発奨励キャンペーンを展開してはどうか。それを機に徹底した調査報道を行なう。明日につながる改革を紙面で提案すればいい。構造改革、初めの一歩はメディアから。メディアの真価が問われるところだ。
 次世代を育てることもしていないのに、負の遺産だけを増やしてはいけない。ただでさえ、「戦争責任」を残しているのだから。