インドネシアには「ムシャワラ」という言葉がある。徹底的に話し合い、皆が納得して決めるという慣習である。党大会を見ていると、これがムシャワラか、と納得してしまう。各地方の代表が、ああだこうだと意見を言い出し、なかなか先に進まない。なかには、取っ組み合いの喧嘩をする場面もある。よって党大会はスケジュールを大幅に狂わせて進行していく。
地元メディアがもっとも注目したのは、党首選である。開票は深夜にもつれこんだ。候補が4人いたために、誰も過半数に届かず、2回戦に持ち越された。決着が着いたのは朝6時。みな、ぐったりしていた。
予想通り、副大統領ユスフ・カラの勝利だ。インドネシア財界から9人の富豪を従えて乗り込めば、勝てないわけがない。前夜には相当額の実弾を撃ったと噂されている。大統領選で民主化が進んだように見えたインドネシアだが、相変わらずの金権政治にがっかりだ。その日の午後に発表された人事が発表されたが、プラボウォやスピア・パロなど、ユスフ・カラが自分の支持者として連れてきた9人の財界の大物たちが、一斉にアドバイザーに名前を連ねた。かつては大統領スハルトが占めたその地位を、彼らは金で買い占めたのである。
しかも、彼らはこれまでの経緯から、対抗馬の現役党首アクバル・タンジュンに恨みを持つ人々なのだから始末に悪い。
「みんなリベンジなんだ。一番のワルはウィラントだ。アクバル支持を装って、何もせずに彼を敗北に追い込んだ」
こう語る人々は、アクバルに同情的であるが、彼らは自分の会派の方針からユスフに票を投じたのである。
「いまにゴルカルは政府の道具にされてしまう。スハルトの時と同じさ。党員が怒って再び選挙に持ち込むか、われわれがゴルカルを去るか」
結局は、インドネシア政治はコップの中の嵐のまま。金を使ってのリベンジ合戦。直接選挙で国民が決定権を握る方法以外に、インドネシア政界の悪しき慣習は払拭できないという現実を目の当たりにすることになってしまった。