やっぱりブッシュだった。接戦の末ブッシュが勝つ――。今回は私の予想通りだった。
ディベートで失態を演じなければ、ここまで接戦にならず、楽勝だっただろう。それほど、アメリカ人はブッシュが好きなのである。
もちろん、ケリーがもっと魅力があれば、結果は違っていたかもしれない。92年のクリントンのような存在が登場すれば、ブッシュの勝利は微妙だった。ヒラリーでも違ったであろう。
だとしても、民主党圧勝ということはあり得なかった。
ワシントンに1年滞在しなければ、見えなかったアメリカの保守化傾向。ワシントンやNYなど大都市で「反ブッシュ」感情が勝っても、地方に行けば、食卓で「ブッシュ万歳」
と言うのだ、という話はアメリカにいる間によく耳にしていた。
共和党について調べれば調べるほど、その支持者からアメリカ社会の保守化は垣間見えた。特に若者を中心としたモラル低下を嘆く中高年はこう考えるのである。
「アメリカ社会がモラルを取り戻すにはキリスト教の力しかない」
いわゆる「キリスト教原理主義者」だけでなく、まじめにこう考える人々は大勢いるのである。そういう人から見て、ブッシュが魅力的に映るのは、彼が真面目で信仰心が厚いからである。
アル中から立ち直るのにキリスト教の力を借りたブッシュは、以来、お祈りを欠かさない。ホワイトハウスでも週に一度、ブッシュを中心に聖書の会が開かれる。彼は真剣に、キリスト教で全世界の人々が救えると考えているのである。この真面目さが根底にあるために、イラク戦争もややこしい。あまり考えたくないが、ハンティントンの『文明の衝突』がますます鮮明になるということである。
おそらく日本でニュース映像を見ていると、ブッシュのモンチッチのような容姿と表情に子供っぽさを感じるに違いない。そして、一国の大統領としてはどこかドンくさい空気を嫌いだと感じている人も多いと思う。しかし、それが全米では重要なのだと思う。都会的でもなく、超エリートでもなく、けれどもキリスト教を真面目に信じるブッシュだからこそ、とても支持されるのである。実際、ブッシュ自身、学生時代から東部のエスタブリッシュメントの人々がアメリカ政治に支配的であることに対して強い抵抗感を持っていたという。そこがまた、地方の人々には共感を持たれるゆえんである。
くわえて、そうしたキリスト教右派の人々を取り込むことを目論み、4年かけてそれを実行した選挙参謀カール・ローブの存在が大きいと考えるべきであろう。インドネシアでさえ、ユドヨノの背後に賢い選挙参謀がついただけで、メガワティは大敗したのだ 。選挙は人望や政策能力だけで勝つことは不可能である。アメリカの民主党はこの点でも失敗した。
しかし、最後に敗北宣言をしたケリーは、やはりそれなりの人物だったと思う。夜中に登場して粘り宣言をした副大統領候補エドワーズには、親近感を覚えることができず、まだまだ青いと思わせるものがあった。それに比べて、ケリーは大人だった。
ケリーが口にした「アメリカ分断」という表現。それを受けて、世界中の報道機関がアメリカ分断にこだわって大統領選挙を分析していたが、実は、これは全世界的な傾向のように思っている。そして日本もまた、分断されつつあることを私は強く感じている。
注 ユドヨノの選挙参謀については、サンデー毎日10月30日号の拙稿参照。