9月○日 共和党大会

  なんともノーテンキに見えるブッシュ大統領だが、実のところ共和党の中は一枚岩ではない。それをまとめあげるのに大きく貢献したのが、チェイニーとシュワルツネッガーだ。
 チェイニーは決して演説の上手な政治家ではない。力強いわけでもない。口が歪んで、見るからに冷たい感じがするのに、なぜ、こんなに共和党員には人気があるのか。
 ワシントンに着いたときから副大統領候補をジュリアーニにすべきだと何度も提案していた私だが、共和党関係者からの答は常にこうだった。
 「それは駄目だよ。チェイニーなしでは、ブッシュは共和党をまとめられないんだから」
 彼が裏の功労者というわけだ。
 ならば、持病の心臓発作で副大統領辞退というのはどうだろう。このシナリオも、しかし見事に打ち砕かれた。心臓発作で入院したある人を見舞った時のことである。
 「手術して機械をつけたんだけどね。これをつけると次に発作が起きても、自動的に電気ショック的マッサ  ージをしてくれて、心臓は止まらないんだ。だから死ぬことは絶対にない。350万円くらいするんだけど、  あのチェイニーも同じ機械をつけているらしいじゃない」
 と彼は不死身になったことを喜んでいた。
 もちろん、私の知り合いが元気でいてくれるのは嬉しい限りだ。しかし、チェイニーが続投ということになると、世界全体が迷惑至極。350万円なんて、彼にとっては、吹けば飛ぶような金額だ。イラクも北朝鮮も気が気ではないだろう。
 一方、俳優のわりにスピーチが上手とは思えないシュワルツネッカーは、今回の共和党大会の演出上、大きな意義があったというべきだろう。共和党員であることを強調し、だったらブッシュを支持しよう的な文言は、分裂傾向にあった共和党をひとつにまとめるのに効を奏した。イデオロギーや政策よりも、ポピュリズムで州知事になってしまったシュワちゃんだからこそ担えた役割だ。
 ワシントンに来てまもなく彼が州知事に選ばれたと記憶している、ワシントンでは
 「彼が当選するようでは世も末だ」
 と多くの人が嘆いた。
 また、小泉人気について聞かれるたび、私なりの分析を披露すると
 「あら、まるでシュワルツネッカーみたいね」
 と関心されたものだ。
 シュワルツネッカーはこうも語った。オーストリア人でありながらアメリカで大成し党大会でスピーチをする。これはまさにアメリカの度量の大きさの象徴である、と。このくだりは、アフリカ出身でハインツの御曹司と結婚してアメリカ国民となり、未亡人となってからもファーストレディになるチャンスを有しているケリー夫人のスピーチを食ってしまった感がある。
 で、肝心のブッシュの演説。あれ?小泉さんの名前はないの?
 おまけに、日本や韓国を差し置いて、あれれ、オーストラリアが同盟国のトップ?
 もっとも、オーストラリアのハワード首相は、東ティモールの独立をかけた国民投票のあたりから、「アジア太平洋のアメリカ」を目指してきた。ここは我らが領域。アメリカに待ったをかけて、同盟国として自分たちがその任を負うというわけだ。アフガニスタンでもイラクでも、名実ともにアメリカ支持のスタンスを貫きつつ、自分たちのアジア太平洋におけるプレゼンスを強調してきたのだから、アメリカからみれば、可愛い子分だ。
 この破格の扱いは、アメリカの配慮なのか、ハワード首相の根回しが効を奏しているのか。同じアングロサクソンの血はシンパシーを呼ぶのであろう。そういえば、東ティモールに乗り込んで勝ち誇ったように戦車から顔を出したオーストラリア軍の兵士と、イラクで銃を持ったアメリカ軍の兵士の顔とは、私たちからみれば同じだった。
 日本も軍隊を持って同様の顔をしようなどとは、どうぞ考えないでいただきたい。どんなに頑張って貢献したところで、所詮、アジア人を仲間とは見なさないのだ。アメリカ社会では黒人より低い。そのことを忘れず、小泉さん、慎重にお願いします。